民法・全体像

民法の全体像

全1050条をどう歩くか。5つの編がどんな順番で何を受け持ち、なぜ「総則」が何度も出てくるのか——条文を1つずつ読み始める前に、地図を手に入れておきます。

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レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

民法って第1050条まであるんでしょ!? 1条から順に読んでいったら、たどり着く前に人生が終わっちゃうよ……。

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

ふむ。順に読むのは、地図を持たずに山へ入るようなものじゃな。民法は5つの編に分かれておって、それぞれ受け持ちが決まっておる。まずその地図を手に入れるとよい。今日はそれを描いていこうかの。

民法はどんな法律か

民法は、私人どうしの関係を規律する法律です。国家と私人の関係を扱う公法に対して、こうした法を私法私法しほう私人どうしの関係を規律する法のこと。国家と私人の関係を規律する公法と対になる区分で、民法はその中心にあたります。用語ページを見る →と呼びます。

そのなかでも民法は、一般法一般法いっぱんほうある分野について広く一般に適用される法のこと。民法は私法の一般法であり、特別法に定めがない事柄はここに戻って判断します。用語ページを見る →という位置にあります。借地借家法や商法のような特別法特別法とくべつほう特定の人・場所・事柄に限って適用される法のこと(借地借家法、商法など)。一般法に優先して適用されます。用語ページを見る →に特別の定めがあればそちらが優先しますが、定めのない事柄は民法に戻って判断する——そういう受け皿の役割です。だからこそ条文が多く、宅建から司法試験まで、どの資格でも避けて通れません。

冒頭の2か条が、この法律全体の姿勢を示しています。

条文 内容
第1条(基本原則) 私権は公共の福祉に適合しなければならない/権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実に信義則しんぎそく権利を使うときも義務を果たすときも、相手の信頼を裏切らないよう誠実に行動しなければならないという原則(民法1条2項)。「信義誠実の原則」の略です。用語ページを見る →行わなければならない/権利の濫用は許さない
第2条(解釈の基準) この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として解釈しなければならない

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

いきなり「公共の福祉」って、なんだか壮大だね。

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

裏を返せば、民法の土台には私的自治の原則私的自治の原則してきじちのげんそく自分の生活関係は自分の意思で自由に決められるという、私法の基本的な考え方。契約自由の原則や、意思表示を出発点とする法律行為の仕組みは、ここから導かれます。用語ページを見る →——自分のことは自分の意思で決めてよい——という考えがあるということじゃ。第1条は、その自由にも限界があると釘を刺しておるのじゃな。

5つの編と、その受け持ち

民法の本則は第1条から第1050条まで、5つの編でできています。

編 名称 条文 受け持ち
第一編 総則 第1条〜第174条 全編に共通するルール(人・物・法律行為・時効)
第二編 物権 第175条〜第398条 物を直接支配する権利
第三編 債権 第399条〜第724条 人に何かを請求する権利
第四編 親族 第725条〜第881条 夫婦・親子・後見・扶養
第五編 相続 第882条〜第1050条 人が亡くなった後の財産の行方

前の3編(総則・物権・債権)をまとめて財産法財産法ざいさんほう物やお金をめぐる関係を扱う分野の呼び名で、民法では総則・物権・債権の3編がこれにあたります。家族法と対になる整理です。用語ページを見る →、後ろの2編(親族・相続)をまとめて家族法家族法かぞくほう家族や相続をめぐる関係を扱う分野の呼び名で、民法では親族・相続の2編がこれにあたります。身分法とも呼ばれます。用語ページを見る →と呼びます。扱う世界がかなり違うので、学習上もこの線で区切ると見通しがよくなります。

なぜ「総則」が何度も出てくるのか

民法を読み始めると、「総則」という見出しに何度も出会います。第一編が丸ごと総則であるうえに、第二編・第三編・第四編・第五編にも、それぞれ冒頭に第一章「総則」が置かれているからです。

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

総則だらけ! どれがどれだか分からなくなりそう。

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

これはパンデクテン方式パンデクテン方式ぱんでくてんほうしき共通するルールをくくり出して「総則」として前に置く、法典の編成方式のこと。民法が第1条から総則で始まり、各編の冒頭にも総則が置かれているのはこの方式によります。用語ページを見る →という編み方でな。共通するルールをくくり出して前に置くのじゃ。同じことを何度も書かずに済むという利点がある。そのかわり、1つの事件を解くのに条文が離れた場所に散らばるのじゃよ。

たとえば「未成年者が土地の売買契約をした」という事件を考えると、必要な条文はこう散ります。

見るところ 内容 だいたいの位置
第一編 総則 制限行為能力者制限行為能力者せいげんこういのうりょくしゃ未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →の行為の取消し 第5条前後
第一編 総則 法律行為法律行為ほうりつこうい契約や遺言のように、意思表示を要素として、その意思のとおりの法律効果を生じさせる行為のこと。用語ページを見る →・意思表示意思表示いしひょうじ契約を結ぶなど、一定の法律効果を発生させようとする意思を外部に表明する行為。用語ページを見る →のルール 第90条〜第137条
第三編 債権 売買契約の効力 第555条前後
第二編 物権 所有権が移り、登記で対抗する 第176条・第177条

1つの事件に、複数の編がまたがって効いてくる。 これがパンデクテン方式の読み方であり、民法が難しく感じられる最大の理由でもあります。

各編を、もう少し細かく

第一編 総則(第1条〜第174条)

章 条文 内容
第一章 通則 第1条〜第2条 基本原則・解釈の基準
第二章 人 第3条〜第32条 権利能力権利能力けんりのうりょく権利を持ち、義務を負うことができる資格のこと。民法3条1項により、人は出生と同時にこれを取得します。用語ページを見る →、意思能力、行為能力、住所、失踪
第三章 法人 第33条〜第84条 法人(第38条〜第84条は削除)
第四章 物 第85条〜第89条 「物」とは有体物(第85条)、不動産と動産(第86条)
第五章 法律行為 第90条〜第137条 公序良俗公序良俗こうじょりょうぞく「公の秩序又は善良の風俗」をまとめた呼び方。これに反する法律行為は無効です(民法90条)。用語ページを見る →、意思表示、代理、無効・取消し、条件・期限
第六章 期間の計算 第138条〜第143条 期間の数え方
第七章 時効 第144条〜第174条 取得時効・消滅時効

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

第38条から第84条が「削除」って、どういうこと?

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

法人に関する規定が別の法律へ移ったのじゃ。番号だけが空き番として残っておる。条文を順に読んでいて、37条の次が85条に飛んで驚くのはここじゃよ。詳しくは民法第38条〜第84条の解説を見るとよい。

第二編 物権(第175条〜第398条)

物権は、物を直接支配する権利です。第175条が「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない」と定めており、これを物権法定主義物権法定主義ぶっけんほうていしゅぎ物権は法律に定めるもののほか創設することができない、という原則(民法175条)。当事者が合意しても、新しい種類の物権を勝手に作ることはできません。用語ページを見る →といいます。当事者が勝手に新しい種類の物権を作ることはできません。

章 条文 内容
第一章 総則 第175条〜第179条 物権法定主義、物権変動物権変動ぶっけんへんどう所有権などの物権が発生・移転・消滅すること。売買による所有権の移転が代表例です。用語ページを見る →と対抗要件
第二章 占有権 第180条〜第205条 事実として持っていることの保護
第三章 所有権 第206条〜第264条 使用・収益・処分をする権利、相隣関係、共有
第四章 地上権 第265条〜第269条 用益物権用益物権ようえきぶっけん他人の土地を使用・収益するための物権のこと。民法では地上権・永小作権・地役権がこれにあたり、担保物権と対になります。用語ページを見る →
第五章 永小作権 第270条〜第279条 同上
第六章 地役権 第280条〜第294条 同上
第七章 留置権 第295条〜第302条 担保物権担保物権たんぽぶっけん債権の回収を確実にするために物の価値を押さえる物権の総称。民法は留置権・先取特権・質権・抵当権の4つを定めています(民法295条以下)。用語ページを見る →
第八章 先取特権 第303条〜第341条 同上
第九章 質権 第342条〜第368条 同上
第十章 抵当権 第369条〜第398条 同上

章の並びには意味があります。**所有権 → 用益物権(地上権・永小作権・地役権) → 担保物権(留置権・先取特権・質権・抵当権)**という順です。前半は「使うための権利」、後半は「お金を回収するための権利」と押さえると迷いません。

第三編 債権(第399条〜第724条)

債権は、特定の人に何かを請求する権利です。物権が物に直接向かうのに対し、債権は人を通します。民法の中で最も条文が多い編です。

章 条文 内容
第一章 総則 第399条〜第520条 債権の目的、債務不履行、責任財産の保全、多数当事者、譲渡、消滅
第二章 契約 第521条〜第696条 契約総論と13種類の典型契約
第三章 事務管理 第697条〜第702条 事務管理事務管理じむかんり義務がないのに他人のために事務の管理をすること(民法697条1項)。契約がなくても管理者と本人の間に権利義務が生じます。用語ページを見る →
第四章 不当利得 第703条〜第708条 不当利得不当利得ふとうりとく法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼすこと。利益の存する限度で返還義務が生じます(民法703条)。用語ページを見る →
第五章 不法行為 第709条〜第724条 不法行為不法行為ふほうこうい故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害すること。契約が無くても、加害者に損害賠償責任が生じます(民法709条)。用語ページを見る →

第二章から第五章までは、債権がどこから生まれるか(発生原因)で並んでいます。

発生原因 内容
契約 当事者の合意から生まれる(契約自由の原則契約自由の原則けいやくじゆうのげんそく契約をするかどうか、どのような内容にするか、どのような方式によるかを当事者が自由に決められるという原則。民法521条・522条2項が明文化しています。用語ページを見る →)
事務管理 頼まれずに他人の事務を処理したことから生まれる
不当利得 法律上の原因なく得た利益を返させる
不法行為 故意・過失で他人の権利等を侵害したことから生まれる(第709条)

第四編 親族(第725条〜第881条)

章 条文 内容
第一章 総則 第725条〜第730条 親族親族しんぞく六親等内の血族・配偶者・三親等内の姻族のこと(民法725条)。日常語の「親戚」より範囲が条文ではっきり決まっています。用語ページを見る →の範囲
第二章 婚姻 第731条〜第771条 婚姻の成立・効力、夫婦財産制、離婚
第三章 親子 第772条〜第817条 実子・養子(特別養子を含む)
第四章 親権 第818条〜第837条 親権の内容と喪失
第五章 後見 第838条〜第875条 未成年後見・成年後見
第六章 保佐及び補助 第876条〜第876条の10 保佐人・補助人
第七章 扶養 第877条〜第881条 扶養義務

第五編 相続(第882条〜第1050条)

「相続は、死亡によって開始する」(第882条)から始まり、相続人は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(第896条本文)——ただし一身専属のものを除く、という骨格です。

章 条文 内容
第一章 総則 第882条〜第885条 相続開始の原因
第二章 相続人 第886条〜第895条 相続人の範囲、欠格・廃除
第三章 相続の効力 第896条〜第914条 相続分相続分そうぞくぶん各共同相続人が相続財産を承継する割合のこと。法定相続分(民法900条)と指定相続分(民法902条)があります。用語ページを見る →、遺産分割
第四章 相続の承認及び放棄 第915条〜第940条 単純承認・限定承認・相続の放棄相続の放棄そうぞくのほうき相続人としての地位を放棄すること。熟慮期間内に家庭裁判所に申述してします。用語ページを見る →
第五章 財産分離 第941条〜第950条 相続債権者等の保護
第六章 相続人の不存在 第951条〜第959条 相続財産法人相続財産法人そうぞくざいさんほうじん相続人のあることが明らかでないときに、相続財産そのものが法人とされること(民法951条)。相続人のあることが明らかになれば成立しなかったものとみなされます。用語ページを見る →
第七章 遺言 第960条〜第1027条 遺言の方式・効力・執行
第八章 配偶者の居住の権利 第1028条〜第1041条 配偶者居住権
第九章 遺留分 第1042条〜第1049条 遺留分侵害額請求
第十章 特別の寄与 第1050条 特別寄与料

どこから読むか

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

地図はわかった! でも、結局どこから登ればいいの?

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

1条から順に、はおすすめせん。総則は抽象的すぎて、初学者には手がかりが無いからのう。具体的な場面がある編から入って、必要になったときに総則へ戻る。これが遠回りに見えて近道じゃよ。

学習の順序としては、次のような入り方が取り組みやすいはずです。

  1. 物権の対抗要件(第176条・第177条)——「買ったのに自分のものと言えない」という具体的な驚きから入る
  2. 契約と債務不履行(第三編)——日常の取引に近く、イメージがわきやすい
  3. 総則へ戻る(第一編)——意思表示・代理・時効が、1と2の土台だったと分かる
  4. 親族・相続(第四編・第五編)——財産法とは別の論理として、まとめて学ぶ

資格試験で問われる比重も、この順とおおむね重なります。

資格 出題の中心
宅建 物権(対抗要件・抵当権)、契約、相続の基本
行政書士 総則・物権・債権を広く、家族法も
司法書士 全編。登記との結びつきから物権・相続が厚い
司法試験 全編。条文の趣旨と判例法理まで

資格別の演習

宅建正誤問題AI生成類題

民法は私法の一般法であり、借地借家法のような特別法に定めがある事項については、特別法が優先して適用される。

解答・解説を見る

解答:◯

正しい記述です。特別法特別法とくべつほう特定の人・場所・事柄に限って適用される法のこと(借地借家法、商法など)。一般法に優先して適用されます。用語ページを見る →は一般法一般法いっぱんほうある分野について広く一般に適用される法のこと。民法は私法の一般法であり、特別法に定めがない事柄はここに戻って判断します。用語ページを見る →に優先します。特別法に定めのない事項については、一般法である民法に戻って判断することになります。

行政書士正誤問題AI生成類題

当事者は、合意によって民法その他の法律に定められていない新たな種類の物権を創設することができる。

解答・解説を見る

解答:×

誤りです。民法175条は「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない」と定めています(物権法定主義物権法定主義ぶっけんほうていしゅぎ物権は法律に定めるもののほか創設することができない、という原則(民法175条)。当事者が合意しても、新しい種類の物権を勝手に作ることはできません。用語ページを見る →)。契約自由の原則が広く認められる債権とは対照的な扱いです。

司法書士正誤問題AI生成類題

民法第三編「債権」は、契約・事務管理・不当利得・不法行為という債権の発生原因ごとに章が置かれている。

解答・解説を見る

解答:◯

正しい記述です。第二章が契約(第521条〜第696条)、第三章が事務管理(第697条〜第702条)、第四章が不当利得(第703条〜第708条)、第五章が不法行為(第709条〜第724条)です。第一章の総則は、これらに共通するルールを前に置いたものです。

司法試験正誤問題AI生成類題

民法は、共通するルールをくくり出して前に置くパンデクテン方式を採用しているため、1つの事案を解決するために複数の編の規定を組み合わせて適用する必要が生じる。

解答・解説を見る

解答:◯

正しい記述です。たとえば未成年者による不動産売買では、第一編(行為能力・意思表示)、第三編(売買契約)、第二編(所有権の移転と対抗要件)の規定が同時に問題となります。パンデクテン方式パンデクテン方式ぱんでくてんほうしき共通するルールをくくり出して「総則」として前に置く、法典の編成方式のこと。民法が第1条から総則で始まり、各編の冒頭にも総則が置かれているのはこの方式によります。用語ページを見る →の利点であると同時に、学習上の難所でもあります。

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

なんだか、迷子になっても帰ってこられそうな気がしてきた!

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

それでよいのじゃ。条文の海で迷ったら、「今わしはどの編におるのか」「共通ルールは総則にないか」と問い直す。この2つを覚えておけば、民法は歩ける法律になるぞ。

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