刑法第37条・総則

刑法第37条:緊急避難

現在の危難を避けるためのやむを得ない行為は、生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り罰せられません。正当防衛との違いと、2項の「業務上特別の義務がある者」を確認します。

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レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

正当防衛のお隣にある条文だよね。逃げるためにやったことなら許される、ってこと?

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

半分正しく、半分あぶないのう。第37条には、第36条にはないもう1つの関門があるのじゃ。「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り」——これを害の権衡という。ここが正当防衛との決定的な違いじゃよ。

条文の内容

項 内容
1項本文 自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない
1項ただし書 その程度を超えた行為は、情状情状じょうじょう刑を決めるにあたって考慮される、犯行の事情や犯人の境遇などの一切の事柄。刑法25条の執行猶予や36条2項の過剰防衛の減免は、この情状によって判断されます。用語ページを見る →により、その刑を減軽し、又は免除することができる
2項 1項の規定は、業務上特別の義務がある者には適用しない

正当防衛(36条)との違い

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

どっちも「やむを得ずにした行為」なのに、何が違うの?

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

向かってくる相手が「不正」かどうか、そして守れる法益に枠があるかじゃな。表で並べてみるとよい。

正当防衛(36条1項) 緊急避難緊急避難きんきゅうひなん自己または他人の生命・身体・自由・財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為のこと。生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰せられません(刑法37条1項本文)。用語ページを見る →(37条1項)
きっかけ 急迫不正の侵害急迫不正の侵害きゅうはくふせいのしんがい刑法36条1項が正当防衛の出発点とする要件。「急迫」は法益侵害が現に存在するか間近に迫っていること、「不正」は違法であることを意味します。過去の侵害や将来の侵害には正当防衛が認められません。用語ページを見る → 現在の危難現在の危難げんざいのきなん法益に対する危険が現に存在し、または間近に迫っている状態。刑法37条1項が緊急避難の前提として求めるもので、正当防衛の「急迫不正の侵害」と違い、危難が人の不正な行為であることを要しません。用語ページを見る →(不正であることを要しない)
守れる対象 自己または他人の権利 自己または他人の生命、身体、自由または財産
害の大小 条文に要件なし 生じた害 ≦ 避けようとした害であることが必要
超えた場合 過剰防衛過剰防衛かじょうぼうえい防衛の程度を超えた行為のこと(刑法36条2項)。犯罪は成立しますが、情状により刑を減軽し、または免除することが「できる」とされています。用語ページを見る →(減軽・免除できる) 過剰避難過剰避難かじょうひなん緊急避難の程度を超えた行為のこと。刑法37条1項ただし書により、情状によって刑を減軽し、または免除することが「できる」とされています。用語ページを見る →(減軽・免除できる)

条文が列挙する4つの法益に注意してください。正当防衛が「権利」と広く書いているのに対し、緊急避難は生命・身体・自由・財産と書き切っています。

判例——緊急避難の余地がなければ過剰避難もない

最判昭和35年2月4日は、吊橋が腐朽甚だしく、いつ落下するかも知れないような危険な状態にあったとしても、ダイナマイトを使用してこれを爆破する行為については、緊急避難を認める余地はなく、したがってまた過剰避難も成立しえないと判示しました。

レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長

危ない橋だったのは本当なのに、ダメなんだ……。

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

そう。過剰避難は「緊急避難の枠に一応入るが、程度を超えた」場合の話じゃ。そもそも緊急避難の余地がなければ、1項ただし書にもたどり着けない。 ここは過剰防衛と同じ構造じゃな。

2項——業務上特別の義務がある者

業務上特別の義務がある者業務上特別の義務がある者ぎょうむじょうとくべつのぎむがあるもの職務上、危険に立ち向かうことが求められる立場にある者。刑法37条2項は、この者には緊急避難の規定を適用しないと定めています。用語ページを見る →には、1項が適用されません。危険に立ち向かうこと自体が業務として求められている立場の者は、その危難を理由に責任を免れることができない、という趣旨です。

2項が適用を排除しているのは1項全体です。本文(不処罰)だけでなく、ただし書(過剰避難の減免)も適用されません。

資格別の演習

司法書士正誤問題AI生成類題

緊急避難が成立するためには、危難が他人の不正な行為によって生じたものであることが必要である。

解答・解説を見る

解答:×

誤りです。刑法37条1項は「現在の危難」とのみ定めており、正当防衛の「急迫不正の侵害」と異なり、危難が不正な行為によることを要件としていません。

司法書士正誤問題AI生成類題

緊急避難は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、成立する。

解答・解説を見る

解答:◯

正しい記述です。刑法37条1項本文の文言そのものです。程度を超えた場合は同項ただし書の過剰避難となり、情状により刑を減軽し、または免除することが「できる」にとどまります。

司法試験正誤問題AI生成類題

緊急避難を認める余地がない行為であっても、避難の意思があったときは過剰避難として刑の減免を受けうる。

解答・解説を見る

解答:×

誤りです。最判昭和35年2月4日は、吊橋が落下しかねない危険な状態にあったとしても、ダイナマイトで爆破する行為については緊急避難を認める余地がなく、したがって過剰避難も成立しえないと判示しています。

ガレ博士フクロウ / 駅長補佐

「不正でなくてもよい代わりに、害の大小を比べる」。これが緊急避難の顔じゃ。次は、犯罪の成立に欠かせない「故意」の条文に入るぞ。

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