刑法第38条・総則
刑法第38条:故意
罪を犯す意思がない行為は罰しないという原則と、重い罪の事実を知らなかった者の扱い、そして「法律を知らなかった」という弁解が通らない理由を、3つの項ごとに読み解きます。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
「知らなかった」って言えば、罪にならないの?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
そこじゃ。第38条は、「事実を知らなかった」と「法律を知らなかった」をまったく別に扱う。同じ「知らなかった」でも、効き目がぜんぜん違うのじゃよ。
条文の内容
| 項 | 内容 |
|---|---|
| 1項 | 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない |
| 2項 | 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない |
| 3項 | 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる |
1項——原則は故意犯処罰
「罪を犯す意思」が故意故意罪を犯す意思のこと。刑法38条1項は、罪を犯す意思がない行為は罰しないと定め、処罰されるのは故意のある行為が原則であるとしています。用語ページを見る →です。刑法は、故意のある行為を処罰するのを原則とし、故意のない行為(過失犯過失犯罪を犯す意思がなくても処罰される犯罪。刑法38条1項ただし書の「法律に特別の規定がある場合」にあたるものだけが処罰されます。用語ページを見る →)は「法律に特別の規定がある場合」にだけ処罰します。
最判平成15年11月21日は、自動車の保管場所の確保等に関する法律11条2項2号・17条2項2号の罪について、行為者が、駐車開始時またはその後において、法定の制限時間を超えて駐車状態を続けることを、少なくとも未必的に認識することが必要であると判示しました。故意犯である以上、条文に書かれた事実の認識が要る、ということです。
故意が否定された例
最判平成元年7月18日は、会社代表者が実父の公衆浴場営業を会社で引き継いで営業中、県係官の教示により営業許可申請者を実父から会社に変更する届を提出して受理され、その旨の連絡を受けたため会社に対する営業許可があったと認識して営業を続けていたという事案で、公衆浴場法8条1号の無許可営業罪における無許可営業の故意は認められないとしました。
2項——重い罪の事実を知らなかったとき
事実の錯誤事実の錯誤行為者が認識していた事実と、実際に起きた事実とが食い違うこと。刑法38条2項は、重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者を、その重い罪によって処断することはできないとしています。用語ページを見る →の条文です。重い罪に当たる事実を知らなかった者は、その重い罪では処断できません。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
「処断することはできない」ってことは、まったくお咎めなし?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
いや、条文が禁じているのは「その重い罪によって処断すること」だけじゃ。軽い罪の限度でどうなるかは、この項が答えているわけではないのじゃよ。
3項——法律を知らなかった場合
法律の不知法律の不知自分の行為が法律上許されないことを知らなかったこと。刑法38条3項本文は、それによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないとしたうえで、ただし書で情状による刑の減軽を認めています。用語ページを見る →は、故意を否定する理由になりません。ただし書が用意しているのは、情状による刑の減軽だけです。しかも「できる」であって、必ず減るわけではありません。
最決昭和62年7月16日は、百円紙幣に紛らわしい外観のサービス券を作成した者について、事前に警察官から通貨模造の罰則の存在を知らされ具体的な助言も受けていたのに重大視せず、処罰されないと楽観して作成したなどの事実関係の下では、違法性の意識を欠いていたとしても、それにつき相当の理由があるとはいえないと判示しました。
3つの項を並べて覚える
| 知らなかったもの | 条文上の効果 | |
|---|---|---|
| 1項 | 罪となる事実そのもの(故意なし) | 罰しない(特別の規定があるときを除く) |
| 2項 | 重い罪に当たることとなる事実 | その重い罪で処断できない |
| 3項 | 法律 | 故意は否定されない。情状により減軽できる |
資格別の演習
罪を犯す意思がない行為は、法律に特別の規定がある場合を除き、罰せられない。
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解答:◯
正しい記述です。刑法38条1項の本文とただし書のとおりです。過失犯が処罰されるのは、この「特別の規定」がある場合に限られます。
自分の行為が法律で禁じられていることを知らなかった者は、罪を犯す意思がなかったものとして罰せられない。
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解答:×
誤りです。刑法38条3項本文は、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定めています。ただし書による情状減軽が「できる」にとどまります。
違法性の意識を欠いていた者については、その欠如につき相当の理由があるかどうかを問わず、刑法38条3項ただし書により刑が減軽される。
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解答:×
誤りです。同項ただし書の減軽は「できる」であって必要的ではありません。また最決昭和62年7月16日は、警察官から罰則の存在を知らされ助言も受けていたのに楽観していたという事実関係の下で、違法性の意識を欠いていたとしても相当の理由があるとはいえないとしています。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
「事実の不知は効く、法律の不知は効かない」。この対比を身体に入れておけば、第38条は迷わんぞ。