民法第90条・総則
民法第90条:公序良俗
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効です。第五章「法律行為」の入口に置かれ、契約自由に対する最も基本的な歯止めとなる条文です。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
契約って、当事者が合意すれば何でも決められるんだよね? どんなにひどい内容でも?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
そこに立ちはだかるのが民法90条じゃ。公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為法律行為契約や遺言のように、意思表示を要素として、その意思のとおりの法律効果を生じさせる行為のこと。用語ページを見る →は、無効——たった一文で、合意の力に限界を引いておる。第五章「法律行為」の一番はじめに置かれておるのも、それだけの重みがあるからじゃな。
条文の内容
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 法律行為法律行為契約や遺言のように、意思表示を要素として、その意思のとおりの法律効果を生じさせる行為のこと。用語ページを見る → |
| 要件 | 公の秩序又は善良の風俗に反すること |
| 効果 | 無効とする |
この「公の秩序又は善良の風俗」をまとめて公序良俗公序良俗「公の秩序又は善良の風俗」をまとめた呼び方。これに反する法律行為は無効です(民法90条)。用語ページを見る →と呼びます。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
「取り消すことができる」じゃなくて、いきなり無効なんだ。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
そこが大事じゃ。取消し取消し一応有効に成立した法律行為を、取消権者の主張によってはじめにさかのぼって無効とすること。用語ページを見る →は、取消権を持つ者が主張してはじめて効く。じゃが無効無効はじめから法律効果が生じないこと。取消しと違い、誰かが主張しなくても効力はありません。用語ページを見る →は、誰かが言い出すのを待たぬ。はじめから効力が生じておらぬのじゃ。
条文が何をもって公序良俗違反とするかは書いておらん。だからこそ、具体の事案でどう当てはめられたかを、判例で確かめるのが筋じゃな。
判例:反すると判断された場合
最判平成26年10月28日(民集第68巻8号1325頁)
判示事項は「公序良俗に反する無効な出資と配当に関する契約により給付を受けた金銭の返還につき、当該給付が不法原因給付に当たることを理由として拒むことは信義則上許されないとされた事例」です。
裁判要旨は、破産者甲との間の契約が公序良俗に反して無効であるとして乙が金銭の返還を求められた場合について、次の事情を挙げます。
- その金銭は無限連鎖講に該当する事業によって給付された配当金で、他の会員が出えんした金銭を原資とするものであった
- 当該事業の会員の相当部分の者は甲の破綻により損失を受け、破産債権者の多数を占めるに至っていた
- 甲の破産管財人が破産債権者への配当を行うなど適正かつ公平な清算を図ろうとして返還を求めている
そのうえで、これらの事情の下においては、乙が当該配当金の給付が不法原因給付に当たることを理由としてその返還を拒むことは、信義則上許されない、と結論づけています(補足意見があります)。参照法条には、民法1条2項・民法90条・民法708条が挙げられています。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
無効になったあと、渡したお金が返ってくるかどうかは、また別の問題なんだ。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
そこじゃ。民法708条は「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」と定めておる。公序良俗違反で無効にしたのに、渡したものは返らぬという場面が生じ得るのじゃな。
この判決は、その返還拒絶が信義則信義則権利を使うときも義務を果たすときも、相手の信頼を裏切らないよう誠実に行動しなければならないという原則(民法1条2項)。「信義誠実の原則」の略です。用語ページを見る →上許されないとした事例じゃ。90条・708条・信義則信義則権利を使うときも義務を果たすときも、相手の信頼を裏切らないよう誠実に行動しなければならないという原則(民法1条2項)。「信義誠実の原則」の略です。用語ページを見る →が絡み合う場面として押さえておくとよい。
判例:反しないと判断された場合
最判平成27年9月15日(集民第250号47頁)
判示事項は「過払金が発生している継続的な金銭消費貸借取引の当事者間で特定調停手続において成立した調停であって、借主の貸金業者に対する残債務の存在を認める旨の確認条項及びいわゆる清算条項を含むものが公序良俗に反するものとはいえないとされた事例」です。
裁判要旨は、次の事情などの下では、その調停は全体として公序良俗に反するものということはできないとしています。
| 要旨が挙げる事情 |
|---|
| 調停の目的が、特定の期間内に借主が借り受けた借受金等の債務であると文言上明記され、確認条項及び清算条項もこれを前提とするものである |
| 確認条項は、その期間内の借受け及び返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容である |
| 清算条項に、その取引全体によって生ずる過払金返還請求権等の債権を特に対象とする旨の文言はない |
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
こっちは「反しない」なんだ。2つ並べると、当たり前に無効になるわけじゃないって分かるね。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
よい着眼じゃ。民法90条は強力な条文じゃが、振り回してよいものではない。裁判所は、条項の文言や取引の中身を一つひとつ検討したうえで判断しておる。要旨が事情を細かく列挙しておるのは、そのためじゃな。
第五章第一節の3か条
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 民法90条 | 公序良俗に反する法律行為は無効 |
| 民法91条 | 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う |
| 民法92条 | 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習があり、当事者がその慣習による意思を有していると認められるときは、その慣習に従う |
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
90条が「越えてはならぬ線」、91条・92条が「線の内側は自由」を示しておる。とくに91条・92条にある「公の秩序に関しない規定」という言い回しは、90条の「公の秩序」と呼応しておるのう。三つ続けて読むと、契約自由とその限界という一枚の絵になるのじゃ。
資格別の演習
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効である。
解答・解説を見る
解答:◯
正しい記述です。民法90条がそのとおり定めています。「取り消すことができる」ではなく無効無効はじめから法律効果が生じないこと。取消しと違い、誰かが主張しなくても効力はありません。用語ページを見る →である点が要点です。
民法90条は、公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為の類型を条文上列挙している。
解答・解説を見る
解答:×
誤りです。民法90条は「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」という一文のみで、具体的な類型を列挙していません。どのような行為がこれにあたるかは、最判平成26年10月28日や最判平成27年9月15日のような事例判断の積み重ねによって示されています。
判例によれば、公序良俗に反して無効な契約により給付を受けた者が、その給付が不法原因給付に当たることを理由として返還を拒むことが、信義則上許されない場合がある。
解答・解説を見る
解答:◯
正しい記述です。最判平成26年10月28日(民集第68巻8号1325頁)は、無限連鎖講に該当する事業の配当金であることや破産管財人が適正かつ公平な清算を図ろうとしていることなど判示の事情の下で、返還を拒むことは信義則信義則権利を使うときも義務を果たすときも、相手の信頼を裏切らないよう誠実に行動しなければならないという原則(民法1条2項)。「信義誠実の原則」の略です。用語ページを見る →上許されないとしました。同判決の参照法条には民法1条2項・90条・708条が挙げられています。
判例によれば、過払金が発生している金銭消費貸借取引について特定調停手続において成立した調停に清算条項が含まれている場合、その調停は当然に公序良俗に反して無効となる。
解答・解説を見る
解答:×
誤りです。最判平成27年9月15日(集民第250号47頁)の裁判要旨は、調停の目的が特定の期間内の債務であると文言上明記されていること、確認条項が制限利率に引き直した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容であること、清算条項に過払金返還請求権等を特に対象とする文言がないことなど判示の事情の下では、「全体として公序良俗に反するものということはできない」としています。