民法第185条・物権
民法第185条:占有の性質の変更
借りている物は、借りているままでは時効取得できません。他主占有が自主占有に変わるための2つの道を定めた条文と、相続をめぐる判例を確かめます。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
借りている土地でも、20年使い続けたら時効取得できるのかな?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
できぬ。民法162条の要件は「所有の意思所有の意思その物を自分のものとして持つ意思のこと。民法162条の取得時効の要件であり、所有権以外の財産権については「自己のためにする意思」とされます(民法163条)。用語ページを見る →をもって」じゃったろう。借りておる者はそれを欠く。そして民法185条が、そう簡単には変わらぬと念を押しておるのじゃ。
条文の内容
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
出発点は他主占有他主占有所有の意思のない占有のこと。賃借人や受寄者のように、返すべき物として持っている場合が典型です。民法185条の要件を満たさない限り性質は変わりません。用語ページを見る →です。権原権原ある行為をすることを正当化する法律上の原因のこと。賃借権や地上権のように、他人の物を占有・使用してよい根拠を指します。用語ページを見る →の性質上、所有の意思がないとされる場合——賃借人や受寄者がこれにあたります。
性質が変わる道は、条文が挙げる2つだけです。
| 道 | 条文の言葉 |
|---|---|
| ① | 自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示する |
| ② | 新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める |
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
①は「あなたから借りているつもりはもうありません」って宣言するってこと? 言いにくい……。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
言いにくいのが道理じゃ。内心で思っておるだけでは足りぬ——条文が「表示し」と書いておるのはそこじゃな。しかも相手は「自己に占有をさせた者」と特定されておる。誰彼かまわず言えばよいのではない。
判例:相続は「新たな権原」になるか
最判平成8年11月12日(民集第50巻10号2591頁)
判示事項は「一 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合における所有の意思の立証責任 二 他主占有者の相続人について独自の占有に基づく取得時効の成立が認められた事例」です。
裁判要旨の一は次のとおりです。
他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
民法186条1項では所有の意思は「推定する」だったのに、ここでは相続人のほうが証明するの?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
鋭いのう。要旨は、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効を主張する場合という限定を置いておる。その場面では、相続人の側が「外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づく」といえる事情を証明せよ、というのじゃ。
要旨の二では、登記済証を所持し、固定資産税を納付し、管理使用を専行し、賃借人から賃料を取り立てて生活費に費消していた——といった事実関係のもとで、取得時効の成立が認められておる。何を証明すればよいかの手がかりになるのう。
最判昭和44年9月30日(集民第96号657頁)
判示事項は「使用貸借契約により占有を始めた者が賃借権の時効取得を援用するための要件」です。裁判要旨は次のとおりです。
使用貸借契約により占有を始めた者は、民法二〇五条・一八五条の定めるところに従つて賃借権を行使する意思をもつてする占有に変更されたのちに取得時効に必要な期間を経過した旨を主張立証しないかぎり、賃借権の時効取得を援用することはできない。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
こちらは所有権ではなく賃借権の時効取得じゃ。民法205条の準占有準占有自己のためにする意思をもって財産権を行使する場合のこと(民法205条)。物の所持がなくても、占有権の規定が準用されます。用語ページを見る →を経由して、185条が使われておる。「タダで借りておった」ことは「賃借権を行使する意思」とは別じゃ、という筋道じゃな。
資格別の演習
賃借人が内心で「この土地は自分のものだ」と考えるようになれば、その時点で占有の性質は自主占有に変わる。
解答・解説を見る
解答:×
誤りです。民法185条は「自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し」または「新たな権原により」占有を始めることを求めています。内心の変化だけでは性質は変わりません。
判例によれば、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明しなければならない。
解答・解説を見る
解答:◯
正しい記述です。最判平成8年11月12日(民集第50巻10号2591頁)の裁判要旨一がそのとおり述べています。
判例によれば、使用貸借契約により占有を始めた者は、賃借権を行使する意思をもってする占有に変更されたのちに取得時効に必要な期間を経過した旨を主張立証しない限り、賃借権の時効取得を援用することはできない。
解答・解説を見る
解答:◯
正しい記述です。最判昭和44年9月30日(集民第96号657頁)の裁判要旨がそのとおり述べています。民法205条を通じて民法185条が働く場面です。