民法第21条・総則
民法第21条:制限行為能力者の詐術
制限行為能力者が「自分は行為能力者だ」と信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができません。保護に値しなくなった者から、取消権そのものを外す条文です。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
未成年者が「僕はもう20歳だよ」ってウソをついて契約したら、それでも取り消せちゃうの? それはさすがにズルい気がする……。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
よいところに気づいたのう。民法21条は、まさにそこを断ち切る条文じゃ。詐術詐術制限行為能力者が、自分は行為能力者だと相手に信じさせるために用いる手段のこと。これを用いたときは、その行為を取り消すことができません(民法21条)。用語ページを見る →を用いた者からは、取消権を取り上げる。守る値打ちがなくなった、ということじゃな。
条文の内容
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
短い一文ですが、要件と効果を分けると輪郭がはっきりします。
要件
- 制限行為能力者制限行為能力者未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →がしたこと
- 行為能力者であることを信じさせるためであること
- 詐術詐術制限行為能力者が、自分は行為能力者だと相手に信じさせるために用いる手段のこと。これを用いたときは、その行為を取り消すことができません(民法21条)。用語ページを見る →を用いたこと
効果
- その行為を取り消すことができない
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
「取り消すことができない」って、結局どうなるの?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
行為はそのまま確定的に有効じゃ。取消し取消し一応有効に成立した法律行為を、取消権者の主張によってはじめにさかのぼって無効とすること。用語ページを見る →という武器を失うのじゃから、後から「あれは無かったことに」とは言えぬ。相手方は、催告して返事を待つまでもなく安心してよいわけじゃな。
「詐術」とはどこまでを言うのか
条文は「詐術」としか書いていません。では、自分が制限行為能力者制限行為能力者未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →であることを黙っていただけの場合はどうなるのか。ここに最高裁の判断があります。
最判昭和44年2月13日(民集第23巻2号291頁)
判示事項は「無能力者であることを黙秘することと民法二〇条にいう『詐術』」です。裁判要旨は次のとおりです。
無能力者であることを黙秘することは、無能力者の他の言動などと相まつて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには、民法二〇条にいう「詐術」にあたるが、黙秘することのみでは右詐術にあたらない。
この判決が「民法二〇条」と呼んでいるのは、判決当時の条数です。現行の民法で詐術を定めているのは民法21条であり、その文言は「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない」です。判決文中の「無能力者」も、現行の制限行為能力者制限行為能力者未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →にあたる当時の呼び名です。
| 事情 | 裁判要旨の判断 |
|---|---|
| 黙秘することのみ | 詐術にあたらない |
| 黙秘+他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、又は誤信を強めた | 詐術にあたる |
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
黙っているだけならセーフで、そこに何か足すとアウト、ということ?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
裁判要旨が言っておるのはそこまでじゃ。黙っていただけでは足りぬ。じゃが、他の言動と相まって相手を誤信させた、あるいは誤信を強めた——と認められるなら詐術になる。要旨に無いことを足して読んではならぬぞ。
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
考えてみれば筋が通っておる。制限行為能力者制限行為能力者未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →に「私は制限行為能力者です」と名乗る義務を課したら、保護のはずが重荷になってしまうからのう。
民法20条と並べて見る
民法20条と民法21条は、いずれも相手方の側を守る仕組みですが、働き方がまるで違います。
| 民法20条(催告権) | 民法21条(詐術) | |
|---|---|---|
| きっかけ | 相手方が催告催告相手に対して「〜してほしい」と促す通知のこと。制限行為能力者の相手方は、追認するかどうかの確答を求める催告ができます(民法20条)。用語ページを見る →をする | 制限行為能力者制限行為能力者未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →が詐術詐術制限行為能力者が、自分は行為能力者だと相手に信じさせるために用いる手段のこと。これを用いたときは、その行為を取り消すことができません(民法21条)。用語ページを見る →を用いる |
| 相手方に必要な行動 | 期間を定めて確答を求める | 何も要らない |
| 効果 | 追認又は取消しがみなされる | 取り消すことができない |
| ねらい | 不安定な状態を早く終わらせる | 保護に値しない者から保護を外す |
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
20条は「待つのがつらいなら、こちらから動け」という道。21条は「だまされたのなら、そもそも覆されぬ」という道じゃ。二本立てで相手方を支えておるのじゃな。
誰の取消権が失われるのか
条文は「その行為を取り消すことができない」と、行為を主語にして書いています。取消権を持つのは制限行為能力者制限行為能力者未成年者・成年被後見人・被保佐人・民法17条1項の審判を受けた被補助人の4者をまとめた呼び名(民法13条1項10号)。用語ページを見る →本人だけではなく、民法120条1項により、その代理人・承継人・同意をすることができる者も取消権者です。
レガちゃんパグ犬 / 見習い駅長
じゃあ、本人がウソをついたとき、親は取り消せるの?
ガレ博士フクロウ / 駅長補佐
条文の書きぶりを見るのじゃ。「その者は取り消すことができない」ではなく「その行為を取り消すことができない」じゃ。行為そのものが取消しの対象から外れておる、と読むのが素直じゃろうな。
資格別の演習
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
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解答:◯
正しい記述です。民法21条がそのとおり定めています。詐術詐術制限行為能力者が、自分は行為能力者だと相手に信じさせるために用いる手段のこと。これを用いたときは、その行為を取り消すことができません(民法21条)。用語ページを見る →を用いた場合、取消しという手段そのものが失われ、その行為は確定的に有効なものとして扱われます。
判例によれば、制限行為能力者が自らが制限行為能力者であることを黙秘していた場合、それだけで民法21条にいう詐術にあたる。
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解答:×
誤りです。最判昭和44年2月13日(民集第23巻2号291頁)の裁判要旨は「黙秘することのみでは右詐術にあたらない」としています。同要旨は、黙秘が他の言動などと相まって相手方を誤信させ、又は誤信を強めたと認められるときに詐術にあたる、と述べています。なお、同判決が「民法二〇条」と呼んでいるのは判決当時の条数で、詐術を定める現行の規定は民法21条です。
制限行為能力者が詐術を用いた場合、相手方は、民法20条の催告をしてはじめてその行為を確定的に有効なものとすることができる。
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解答:×
誤りです。民法21条は、詐術があったときは「その行為を取り消すことができない」と定めており、相手方の側で何かをする必要はありません。催告催告相手に対して「〜してほしい」と促す通知のこと。制限行為能力者の相手方は、追認するかどうかの確答を求める催告ができます(民法20条)。用語ページを見る →を要するのは民法20条の場面であって、両者は別々の仕組みです。
判例によれば、制限行為能力者であることの黙秘は、その者の他の言動などと相まって相手方を誤信させ、又は誤信を強めたものと認められるときには、詐術にあたる。
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解答:◯
正しい記述です。最判昭和44年2月13日(民集第23巻2号291頁)の裁判要旨がそのとおり述べています。黙秘それ自体は詐術にあたらないとしつつ、他の言動と相まった場合には詐術にあたり得るという、二段構えの判示になっている点が要点です。